資料 蛙の歌(抄)
本研究所では、2012年6月、本社中庭の池で蛙の声を録音した(音声資料4)。以下は、その整理の過程で作成した、古典に記された蛙の一覧である。抄録であり、網羅を意図しない。
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『古今和歌集』仮名序(905年ごろ、紀貫之)
花に鳴く鶯、水に住む蛙の声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける。
注:同じ序は、歌が「目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ」るとも述べる。
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『万葉集』巻八・1435 厚見王
かはづ鳴く神奈備川に影見えて今か咲くらむ山吹の花
注:古典の「かはづ」は、多く河鹿蛙を指すとされる。歌人は、蛙を見るより、聞いている。
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『古今和歌集』巻二・125 よみ人しらず
かはづなく井手の山吹散りにけり花のさかりにあはましものを
注:井手の蛙と山吹の取り合わせは、以後、歌の約束となる。
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小野小町に伝えられる歌(『新後拾遺和歌集』)
色も香もなつかしきかな蛙なく井手のわたりの山吹の花
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『袋草紙』(12世紀、藤原清輔)より
能因法師は、長柄の橋の鉋屑を宝として見せた。帯刀節信は、懐から、井手の蛙の干物を取り出して見せた。
注:どちらも、歌枕の名残である。
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山崎宗鑑(『新撰犬筑波集』の撰者)
手をついて歌申しあぐる蛙かな
注:仮名序の蛙が、手をついて、歌を差し上げている。
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『蛙合』(1686年春、深川・芭蕉庵)
古池や蛙飛こむ水のおと 芭蕉/いたいけに蛙つくばふ浮葉かな 仙化
注:蛙だけを題にした句合、二十番の第一番。それまでの歌の蛙は鳴くものであり、飛び込む蛙と水の音は、この句に始まるとされる。右の句の「つくばふ」は、音の上で「筑波」に近い。
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小林一茶『七番日記』(文化十三年、1816年)
痩蛙まけるな一茶是に有
注:前書に「蛙たたかひ見にまかる、四月廿日也けり」。
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1917年
高潮の後、深川の芭蕉庵の跡から、石の蛙が見つかった。土地の人は、これを祀った。
注:現在の芭蕉稲荷神社(江東区常盤)である。
本社中庭の池の蛙は、まだ、どの歌にも詠まれていない。
2012年11月9日作成 言語研究所 久住 千秋
